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同人小説書き『植栖価値(うえすかち)』のブログだよ。二次創作とかオリジナルとか色々やるよ。でもブログにはあんまり長いのは載せないと思います。変なのを書きがちだよ。最近は主にTeitterに生息中。TitterID:【lost_taboo】
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kuku著『Love Heart』を読みました。
この作品は所謂「ケータイ小説」と呼ばれる括りに入ります。私も小説を読み、また書く身でありますので、ここらで一つ毛嫌いせずに読んでも良いだろうと判断し、読み始めた次第です。
 
で、感想ですが、まぁ取り立てて云うほど悪くも無いのではないかな、といった感じです。


というより、現在でこそそもそもあまり話にも登らなくなったケータイ小説ですが、表立って現れた当初、その叩かれ方は少し尋常でない所がありました。が、その理由は主に「同じような内容のものが氾濫し過ぎている」といったところであり、具体的に中身がどうこう、といったモノでは無かったように思います(文章力云々の話もありましたが、個人的には破綻なく読めればそれで充分ですので今回はあえて触れません。少なくともこの作品に関しては充分だったと思います)。
 
 しかし――私がこれまでに読んだケータイ小説は、この『Love Heart』 とYoshi著『もっと、生きたい…』の二本だけですので、或いはこれは的外れな意見かもしれませんが――或いはこの「同じような内容が氾濫し過ぎている」という批判は、もしかすると始めから的外れなものである、という可能性は無いでしょうか。――これは少し今回の作品感想とは離れた意見になってしまいますが、私はケータイ小説に「レイプや病死や、そんなのばっかりだ!」と批判するのは、ミステリ小説に「また殺人か!」と文句を付けるようなものなのではないかと考えます。ここでそれに関して詳しく述べることは避けますが、あながち的外れでもないと思います。
 
 閑話休題。そこでこの『Love Heart』 ですが、これもそのいわゆる『文句』に漏れず、そういったテンプレーションの切り張りのような作品です。正直にいうと、たった今述べたよう、まさしく「切り張り」というべき展開で、決して上手いとは云えません。
 
「クラスメイトにレイプされ、心に闇を負った主人公が性を売るようになるも、ある男との出会いや親友の存在により立ち直り男と付き合うようになるも、その男と親友とはあるただならぬ関係があり、それが理由で親友とは離れ離れに。そうこうするも男とは仲直りし幸せに暮らすが、医者になる夢のため、遠くアメリカに留学に行ってしまう……」
 
と、要約するとこんな感じです。括弧の中には書きませんでしたが、彼氏の親友のかつての恋人はその昔事故で亡くなっており、彼は彼で彼女の面影を持つ女性に恋をしていたりします。テンプレート・オブ・テンプレート(私的には『様式美』と言い換えて差し支えないと考えていますが)。
 
 さて、しかしこの作品を読んでいて、私は一際印象に残ったエピソードがあります。それは物語終盤、彼氏(ハルキ)がアメリカへの一年間の留学の内十一カ月が経ち、来月には帰ってくるというある日、主人公のリカが、酔って視界も定まらないショウというクラスメイトがサラリーマンにぶつかり文句を云われているのを街で偶然見かけるシーンです。
 ――この「ショウ」という、まるで浮浪者然とした男……。先にも書いたように彼はリカのクラスメイトで、そしてなんと、物語冒頭でリカをレイプした犯人その人なのです。
彼は作品開始十ページ足らずでリカをレイプ、その十五ページ後に再びレイプするという非常にイカれた男として、さながらノーマン・ベイツさながらの存在感を持つ男なのですが、さらにその数ページ後には物語から退場させられてしまう男なのです。
 その彼が物語の終盤も終盤再登場する物語上の意味は、云うまでも無く「レイプの過去を乗り切ったリカ」を強調することでしょう。
しかし私はそれよりも、そのショウの弱り具合(それはリカから見ても哀れに見えるほどの)に、なんとも云えぬ哀愁を感じたのです。――物語に描かれることのなかった彼のドラマを想像せずには居られなかったのです――
 
 そもそもなぜショウはリカをレイプしてしまったか。
 作中でも描かれますが、それはショウのリカに対する独占欲によるものでした。リカとしてはあくまで「仲の良い友達」だったのが、ショウにとってはいつの間にか「内縁の彼女」とでも云うような、「告白やそういった手続きは踏んでいないし、リカとの共通理解さえ得られていないけれど、彼女」というような関係になってしまったのだと思われます。
そして、であるが故に、その独占欲からリカを犯します。
 
 そうして翌日、クラスメイトであるその二人は学校にて再び合間見えますが、なんとショウは、その日もまた学校でリカを犯します。
しかしその日のうちにリカはショウの家に乗り込み、完全に「勘違いキチガイ男」になり果ててしまったショウに絶縁状と金的蹴りを叩き付け、それ以来ショウは学校に現れなくなってしまう訳です。
 
 その時点で三六ページ。再登場するまでの二七三ページまで、作中『ショウ』という名前すらろくに出てきません。彼は事実上、物語からの退場をしてしまった訳です。
 
 物語冒頭、彼はちょっとした優男――可もなく不可もなく、リカが「いい友達」だと評するのもさもありなんな姿であるのに対し、終盤で登場する彼は、昼間からアルコールを飲み足取りもままならない、半廃人のような様子であらわれます。先ほども書きましたが、それこそ(乗り越えたとはいえ)レイプの被害者であるリカでさえ、怒りや嫌悪に先だって、憐憫を感じる程の落ちぶれ様です。
 
 彼になにがあったか?
 私はそれを想像せずには居られません。
 
 ――――――――
 
 最初、彼は恐らく本当にモノの弾みで犯行を犯しました。
合コン行こうとするリカを、合コンで誰かに盗られまいと。それは一種のマーキング行為と云えるでしょう。「これは自分のものだ」という匂い付けの行為です。
 とはいえ、当然この時点では彼は、「自分とリカは付き合っている」などと考えていた訳ではありません。彼の発言や、彼がリカの手を拘束をしていることからもそれが分かります。「好き」という感情と性欲とが暴走した、本当に弾みだったのでしょう。
 
 ――とはいえ、ここから彼の苦悩は始まります。
 なにしろレイプ犯罪。しかも相手はクラスメイト。その上自分の想い人。
 彼は悩みます。そうして悩んだ結果、彼は狂人になる事を選びます。
――狂人。先ほど私は彼を表現するのに「ノーマン・ベイツ」の名を用いましたが、そうです、彼は穏やかなる狂人になる事を選んだのです。
 
 そして彼は学校でリカと逢います。
彼はまるでいつものように、まるで何事も無かったかのように彼女に振舞い、――そしてまたリカを犯します。恐らくこの時点での彼の心理では、「このままリカを飼い慣らしてしまおう」という意識もあったのではと推測されます。愛の名のもとに。
彼はリカの耳元で囁きます。『リカ、愛してるよ』
 
 しかしその日、彼にとって予想外の出来事が起こります。なんとリカは自らショウの家に乗り込んできたのです。リカにとっては全てに対して決別する意思を込めた襲撃(正しくは、レイプされて逃げ出した際置きっぱなしだった荷物の回収がメインの目的なのですが)。
しかし、つい数時間前まではただの被害者で自分の所有物であった筈のリカが強く出てきた事で、彼の理性は崩れ落ちます。優しさの仮面は剥げ落ち、再びリカを犯さんとしますが、ここにおいて彼はついに反撃を許します。金的蹴りと、別れの言葉。
 
 ――恐らく、ただ別れの言葉を吐かれただけでは彼はまだ諦めはしなかったでしょう。飼い犬に手を噛まれたところで、彼はより強烈に躾ければ良いと考えた筈です。しかし、ここにおいてリカは、彼に金的蹴りをお見舞いしているのです。
 
――金的蹴り。
 
恐ろしい事です。金的蹴り。恐らく、彼は金的蹴りのショックで、剥げ落ちた優しさの仮面の着け方を忘れてしまったのです。強引な理屈でしょうか? いえ、そう云い切れたものでもありません。こう考えてみてください。
 
――彼はその金的蹴りにより、性機能不全に陥ってしまった、と。
 
どうでしょうか。あり得ない話ではないでしょう。自分を憎む女性からの、本気の金的蹴り。手加減など期待できよう筈もありません。いえ、むしろ本気で潰しに掛かってきていたと考えても不自然ではありません。――なにしろリカにとってそれは、自分を犯した憎きペニスなのですから。
もちろん、蹴られた次点ではその事実には気付けないでしょう、が、男性諸氏にならば共感頂けると思いますが、金的蹴りとは男性にとっては『最後の手段』なのです。女性にとっては知った事では無いかもしれませんが、少なくとも男性にとってはそうです。喧嘩などしても、最初に金的を狙っては、きっと彼は「卑怯者」のレッテルを張られてしまうことでしょう。
それを自ら受ける、ということは「相手の最後の手段」をその身に受ける事になります。そこではすでに「いやよいやよも好きのうち」というレイプの常套の理屈も通用しません。相手の本気を理解せずには居られないのです。
金的蹴りとはそういう種類の攻撃なのです。
 
――とにかく。こうなると彼が今後学校に来なくなってしまったことにも説明が付きます。――要するに、頭が冷えてしまったのです。今や、リカに合わせる顔などないと、気が付いてしまったのです。おまけに彼は今や不能者、レイプに如何なる価値をも感じざる身です。
……そしてそれは、彼が「狂人」としてではなく冷静な「一般人」として自らの犯したレイプ犯罪について向き合わなければいけない事を意味していました。
 
取り返しのつかない事をした苦悩は、彼を飲酒に走らせ、――やがて物語終盤に再登場するあの、落ちぶれ荒んだ彼の姿になるのです。
 
 ――――――――
 
 この小説の始まりは、まるでショウがリカの相手役の様に書かれます。しかしその実、彼はリカをレイプするだけの舞台装置としていとも容易く使い捨てられてしまいます。あまりにも不遇な彼の扱い。
しかし彼の存在は、この物語に深く奥行きを出すことに、大きく貢献しており、ただの使い捨てでは無い重要な役割を果たしています。きっと彼が居なければ、私はこの物語を「十把一絡げの凡作」と切って捨ててしまっていた事でしょう(あえて駄作とは云いません)。しかし彼が居たから、この話は私の心に一つの矢を突きたてることに成功したのです。ショウこそがこの物語の影の主人公とでも云える存在であり、彼を物語に存在させ、再登場させたことは作者「kuku」の最大のファイン・プレーであると私は考えるのです。


 ――そして大事な事。
 ことほど左様に金的蹴りとは、それほどまでに恐ろしいのです。

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