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同人小説書き『植栖価値(うえすかち)』のブログだよ。二次創作とかオリジナルとか色々やるよ。でもブログにはあんまり長いのは載せないと思います。変なのを書きがちだよ。最近は主にTeitterに生息中。TitterID:【lost_taboo】
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永い事此岸と彼岸の橋渡しをしていれば、それはもう数え切れないほど多くの死者達を見届けることとなる。それはこれからとて変わる事は無く、今更死者達に同情を抱く事も憎悪を抱く事も無い。
しかし、それでも時として自分の中に認めざるを得ない特別な感情を持つことがある。
――深い愛情。
それは恋人や兄弟に持つものとはまた違う、慈しむような包むような丸く柔らかで真っ白い感情で、時には彼ら――愛すべき死者達の持つ真っ黒な塊ですら包んでしまう程大きなもの――。


        ●

ある日のこと、私が河辺の昼寝から目を覚ましてみるとそこで一人の男がふらふらと彷徨いながら首を振っていた。頭巾の付いた厚い布出の上着に、下は作務衣のようなものを履いている。全体的に見慣れない格好だ。私はそれを見止めると、ゆっくりと起き上がり、「どうかしたんですか?」と語りかけた。
男は私を見ると、私の格好を上から下、また上と何度か眼を滑らせてから返答した。
「いえね、それがよく分からんのです。気が付けばここに居たと言いますか……。それでもね、なあんとなく思うんですよ、あたしあ向こう岸に行かなきゃあいけないんじゃないかって」
その眼にはどこか訝しげなものが含まれていたが、口調は寧ろ穏やかなものだった。
私は、なんだそうなんですかと川に浮かばせた渡し舟の上に立って櫂を手に持ち、鹿爪らしく男に向かって頭を下げた。
「私三途の川の舟渡を務めます、小野塚小町といいます。よろしく」
 
岸を出てすぐの事、男は私に尋ねた。
「あの、お宅の先程言いました事、えと、三途の川の舟渡と……」
「そのままの意味ですよ。今私達が渡ってるのがいわゆる葬頭川、またの名を三途の川です」
「はあ……、へえ、そうかあ、ここが……。あたしは死んだら暗いところに行くとばかり思い込んでましたからねえ、そうかあ……」
男は気が抜けたように何度も頷いていた。しかしその眼の置き場は定まっておらず、乾いた黒の眼が其処彼処に移らされている。
「ところで……、あなたさっき気が付いたらここに居たと言いましたけれども……、ここに来る前に中有の道って通らなかったんですか? 出店のある中々賑やかな道なんですけどね」
男は首を捻った。どうやらこの男は無縁塚の方から結界の綻びを通って来てしまったらしい。結界の交点のある無縁塚は結界が他の場所に比べると若干緩く、三途の川や冥界と繋がってしまうのだ。
「あのう……、ちょっと伺いたいんですがね。あたしは向こう岸に着いたら何をすりゃ良いんでしょうかねえ。あたしの格好は見ての通り薄汚ねえもんで、こんな格好でむざむざ閻魔様の御前に立つわけにもいかねえでしょう」
「その辺りのことはあちらに着いてからあちらの者に尋ねてやって下さいよ。それよりも、ねえ、もっと個人的なお話をしましょう。ここから彼岸まで結構かかりますからね、私はもっとあなたの事を知ってみたいですよ」
「あたしのこと?」
男は呆気に取られたようだった。
「そうです、あなたのこと。あなたの人となりや生立ち、何でも教えて下さい」
「あたしのこと――」
緩やかなせせらぎの中、男は遠くを見つめる。先は白妙の霧に覆われており、ともすれば吸い込まれてしまいそうな斑一つ無い蕭然たる場所で、男は語りだした。
 
 
「何を話しましょうか……。あたしは三人兄弟の末でしてね。そうそう、名前を三太と申します。ちなみに兄は一己と二郎、安直でしょう。兄二人はそれはもう出来の良いやつらでして……。一番上は弁護士、次は作家、ところが一番下のあたしはしがない平社員てな塩梅でして。一時は次男の物真似で作家を目指してみようと思ってみたりしたもんですがね……、どうにも元来飽きっぽい性分でして、まともな作品一本出来上がる前にさっさと諦めちまいましてね。結局クソ面白くもねえ仕事場で下働きですよ。ところがそれだけならともかく不況の煽りかその仕事場さえもクビになっちまいましてねえ。で、気付いてみれば四十も過ぎちまいましてねえ……。
あれ? なんだか随分話が飛んじまいましたね。生立ち話すのに兄弟の構成しか話してないのにもう四十……。なーんだか切ないですねえ。まあ、そんなですからあたしもすっかり疲れちまいましてねえ、死んじゃおうかな、なんて考えたことも、まあ一度や二度じゃあ無かったですよ。
して、そんなある日の夜のことです。あたしも無職じゃ要られないととりあえず土木の現場のアルバイトにこの身を捻じ込みまして、その日の仕事も終わって適当に夜食でも買って帰ろうとしたときにですね、川岸の橋の下から声が聞こえたんです。なにかなと思い、止せばいいものをうっかり好奇心で覗き込んじまったんです。するとどうでしょう、そこでは眼と手と足と口をテープで縛られた男が二人、でかい如何にもヤクザものといった感じの男二人に寄ってたかって殴る蹴るされてたんですよ。驚きましたよそりゃ。でもね、それを見てあたしは、ま、関係ないんですが、こんな事を思っちまったんですよねえ……。「ああ、あの男を助ければ、きっとあたしはあの男にとってのヒーローになれるな」と――」
 
ここまで言って、三太は眼をせせらぎからふいと小町に移し、申し訳なさげに言った。
「すいませんね、やっぱり退屈でしょう。こんな面白みも無いへたれた中年の人生行路なんて……」
「そんなこと無いですから、もっと話して下さいよ。ここらで余計なもの置いて、すっきりしてから映姫さまんとこ行きましょ」
「はて、映姫さまとは?」
「ああ、そうですね、閻魔様のことですよ。いいから早く続きの方を……」
「ああ、はい……」
三太はその後のエピソードを語りだした。どうやら彼は自らの死の経緯を話すことにしたらしい。彼の口調はまるで何度も同じ話を繰り返したことのあるかのように淀みなく、朗々とした滑らかなものだった。
小町はゆっくりと櫂を動かし続ける――。
 
 
橋の下の出来事を目撃した三太はしかし、そのときは動く事が出来なかった。ただ恐ろしく、足を震わせてそれを眺める事しか出来ずに居た。しかし、次の瞬間三太は男達に向かい駆け出した。男の一人が縛られた男の片方に対してピストルを突きつけたのだ。三太はとっさに足元に転がっていた鉄管を一本手に取り男達のもとに走った。ただ無我夢中だった。男達は四人とも何が起こっているのか理解しきれていない様子でその様を見ていたが、ピストルを持った男が鉄管で思い切り頭を殴り付けられているのをもう片方の男が見止めると、ようやく三太に反応し、取り押さえに掛かってきた。しかし三太はかろうじでそれをかわし、縛られていた男の足のテープをなんとか引き千切った。助けられた男は呆気に取られた様子だったが、すぐ意識を取り戻すと、川原の暗い闇の中に駆け出して行った。三太はそれを見届けたが、次の瞬間頭に鈍い激痛が走り、三太の意識は暗い中に沈んだ――。
 
三太が眼を覚ますとまず眼に飛び込んできたのは車のヘッドライトの明りだった。その明りを頼りに周囲をみまわす。沢山のコンテナが整列しているのが見える。天井は半円描いており、沢山の鉄骨が梁のように巡らされている。どうやらそこは何処かの倉庫のようだった。
「おう、起きたかおっさん」
誰かの声が聞こえた。しかし三太はどうやら自分の身はそれどころではないようだと悟った。手が上がらない。脚が動かない。言葉が発せられない。
体のあらゆる自由が失われている――。
首を何とか動かし自分の体を眺めると、体のそこかしこにガムテープがぐるぐる巻きにされている。そして、先程縛られていた男が隣で同じようにされており、さらにその向こう側には、ピストル男の片方が木箱の上に腰掛け、こちらを睨みつけていた。
「おっさん、さっきはやってくれたよなあ。なあ、おい。おかげさんで俺の相棒死んじまったんだぜ? 笑うよな、あんな一発で死ぬもんなんだもんなあ」
男は笑うが、その笑いは乾いたものだった。どうやら怒っているらしい。
死んだと言うのは銃を突き付けていたあの男のことなのだろうか。たった一撃頭を打ち付けただけで死ぬ程、ひ弱な男には見えなかったのだけれど……。
男は話す。
「なあ、あんたの隣に居るそのクズ野郎なんだけどさ、あんたが必死こいて正義感で逃がしてくれちゃった男とそいつ、何してたか知ってるか?」
男は一方的に続ける。
「勝手に組織の金使ってさあ、お薬買ってさあ、その薬ガキ共に売って儲けてやがったんだよ。実際、気付けねえよなあ、薬売って儲けて、儲けたら組織からパクった分の金を元に戻して、差分を自分らの利益にってな。でもな、戻したからって許される訳じゃないわけ。分かるだろ? 薬売るって事はそれなりのリスクがあんだよ。組織に無断でそんなリスクを負うような奴あそれだけで危険なんだ。おまけにこのクソ野郎、組織のお金ででっけえお買い物しやがってなあ、隠してやがんだ、いっぱいの麻薬。こいつら馬鹿だから金戻すってこと忘れてよ、いっぱい買いやがってよ、全部俺等にばれちまってんだよ。でもおっさん、その薬の隠し場所はさあ、あんたが逃がしたもう片方の奴しか知らねえの。こいつぶっ殺してから聞くつもりだったのによう、面倒増やしやがって、なあおっさん」
男は言い切るとなぜか三太の体のテープをナイフで切った。三太の体に再び自由が取り戻される。そしてひとまずの安堵感に包まれた三太に、男はピストルを一丁投げ渡した。
「だからさおっさん」
男はもう一丁のピストルを懐から取り出し、三太のこめかみに突き付ける。
「面倒な仕事を一つ、あんたが片付けてくれねえ?」
三太は硬直した。言っている意味を理解する事が出来なかった。掌の拳銃が、ただ重く感じた。
男が語り始める。
「俺さ……、殺された相棒の事が好きだったんだよ……。これ、マジの意味だぜ? あいつのケツは俺のモノにガッチリ合うってわけ。でもさ、それもそれまでだったんだよ。そこをさらに超えるようなことは有り得なかったわけだ」
男は「殺された」を強調して言った。その言葉の端々からあからさまな憎しみの感情が聞いて取れた。
「死んでから分かるよなあ。あいつあやっぱり俺の最高の相棒だったんだってな。わかるか? 俺はあいつが好きで、あいつも俺が好きで……。おっさんのケツ貸りたところで埋まんねえ訳。試しに貸してくれるか? はっ、いらねえよ。……だからさ、せめてあいつに仕事キッチリさせてやりてえんだよ、相棒のその銃で、其処のクズを一人ぶち抜いてやってくれ。おい、やってくれるよな?」
やらなくては生きて出られないと言うことは確実に分かった。否、やったところでどうなる問題でも無いだろう。彼の言葉が冗談でも、ただの脅迫でもない事は自明だった。三太は今、仕事の依頼を受けているのだ。
「で……でも」
やっと声が出せた。
「あ、あた、あたしが止めてなきゃ、あ、の人、殺してたでしょ? じゃあ……」
自分でも馬鹿な事を言っているのは分かった。
「止めたじゃねえだろ? 殺したんだよお前は、誤魔化すなよおい。で、何? 止めてなきゃ殺してた、殺したら俺みたいに悲しむ奴が出るって言いてえのか? 居るかよそんな奴あんなクズに。いや、居たとしても知らねえな。俺は悲しかねえもん、あいつが死んでも」
三太はもう何も言えなかった。引き金に指を掛けて、そのピストルの持ち主の殆ど無い面影を追った。角材で殴りつけたときの感触を思い出した。それは即ち、殺人の記憶だった。彼の世界が歪む――。
――直後、男の悲鳴が響いた。三太が男の股間を思い切り蹴り上げたのだ。不意を撃たれた男はピストルを落としてのた打ち回る。三太はすかさず男にピストルの標準を合わせ、引き金を引いた。殆ど零距離だった。
――男の死体から血が広がる。
三太は震えていた。何度も何度も、自分の手の中の、熱を持ち先端から煙を揺らす拳銃と、眼前にある、未だ留まらず血や、どうやらそれ以外の液体も垂れ流している死体を見比べた。震えは止まらない。三太が震えながらやっと振り向くとそこには縛られた男が居て、眼を丸くしていたが、目が合ったのが分かると、解いてくれと言いたげに身を捩じらせた。三太は男に引き金を引いた。
 
三太はその後、山を登った。山を登って、森に入った。
彼は、頬に当たる葉っぱの感触を感じながら思い出した。縛られていた男の最期に見せた、何か異常な物を見るような、絶望に満ちた眼を――。
自分が人間で無くなってしまったかのように思われた彼は、人の居ない山奥の森の中に居場所を求めた。
そして彼は足を滑らせ落ちた――。
 
 
「――それで、今に至る訳ですか」
全てを聞いた私は話の切り上げを促すためにそんな相槌を入れた。話が進むに連れて彼が深い闇に囚われていくのが目に見えて分かった。
「ほんとあたしゃ救えないですよ。ここ来るまでに三人も殺してちゃあ、まっ逆さまは覆せないでしょうからねえ」
「さあ、でも三太さんが殺した三人は全員悪人だったんでしょう? しかも聞いた所じゃ筋金入りじゃないですか。まだ分かりませんよ」
「たとえそうでも、やっぱり殺しちゃあ、駄目でしょうよ」
男の目は黒が強調されていた。私は何となくいたたまれない気持ちになり、何とか慰めの言葉を捜す。
「でも……、ほら、あなた一人助けたじゃないですか! これは大きいですよ」
「助けても、やっぱり彼も悪人なんですよ……」
私は不意に面白いような妙な気持ちになった。「くっく」と含み笑いが洩れ、不謹慎なようにも感じたが、私の中に彼に対しての、突然の愛しさが込み上げてきた。
「三太さんは本当に救えないですねえ! いや本当に救えないですよ。そんなのどう転んだって始めっからいい方向に向かうわけ無い事は分かりきってんじゃないですか。普通の人はそんなヤクザの殺人現場なんて、見たって何にもしませんよ、怖いですもん。ああ、なんというか……、あなたはホントに優しいんですねえ! 好きになっちゃいますよ? 嘘ですよ嘘! ホントにあなたは救えない人だ!」
予想だにしなかったのだろう。彼は少しの間、きょとんと笑う私を見ていたのだが、やがてそれにつられるようにして、
「ええ、なんかもう……ホントに、なんでしょうかねえ!」と笑った。
二人ともよく分からないままに何となく笑っていた。あからさまに良くない黒いものを、掌の中で転がして遊んでいるようだった。きっと、彼も同じだったのだろう。
 
――彼岸が目に入った。
 
私は舟を桟橋につけ、三太を降ろした。三太は名残惜しげに私の方を見ていたが、不意に笑顔になり、
「話させて頂いてどうも有難う御座いますね。さっぱり致しましたよ。――それでお願いと言っちゃあなんですがね、こいつをどうにかそちらさんで片付けちゃっていただけませんかね?」と言い、懐から何かを取り出した。
――それは話に何度も出てきた『ピストル』というものだった。私はそれを受け取ると舟の中に投げ込んだ。
「確かに、お預かりしましたよ。さあ、もうお行きなさいな。映姫さまがお待ちですよ」
三太は頷くと、もう一度有難う御座いますと言って歩き出した。
 
 
映姫さまは彼をどのように裁くだろうか。まあ、あの方ならばきっと彼も納得できる判決を下してくださるだろうから、その心配を私がする必要は無い。
私は舟に乗り込み、此岸に向かって漕ぎ出した。
三太はどうやら外の世界の住人だ。きっと崖から落ちて死んだ後、偶然外との境界の緩い無縁塚に辿り付き、またそこの綻びを通りこの三途の川にたどり着いたのだろう。
さて――、この『ピストル』とかいう代物、一撃で人を殺傷せしめる外の世界の兵器のようであるが、河童達はこの置土産を喜ぶだろうか。何となく、あまり喜ばないような気もするので、素直に香霖堂にでも売りつけることにしようか。
私は舟を漕いで帰る。
向こうに着いたらまた昼寝でもして次の客を待とう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                                                    【終】
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植栖価値(うえすかち)
性別:
男性
趣味:
ケツを叩いてアヘアヘ歌う事(嘘)
自己紹介:
 女の子が尿意を我慢する様と、キツネっ娘をこよなく愛する。
 あと百合。百合。大好きだよ。

 パンクロッカー。
 活動経歴・なし。




 
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