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同人小説書き『植栖価値(うえすかち)』のブログだよ。二次創作とかオリジナルとか色々やるよ。でもブログにはあんまり長いのは載せないと思います。変なのを書きがちだよ。最近は主にTeitterに生息中。TitterID:【lost_taboo】
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常であれば紅く暗い紅魔館――。しかしその夜は、紅く賑やかだった。


 よく手入れをされた庭には沢山のガーデンテーブルが並べられており、紅く照らされた空間の下、呼び集められた幻想郷の住人が、それぞれの思うがままにパーティを楽しんでいる。
――その中で、白くて丸いテーブルの前に座り、巫女は呑んでいた。
「よう」
何処から来たのか、巫女を呼ぶ声。
「あら、あんたも来てたの」
「ああ、お前と一緒に招待されてな」
とんがり帽子の魔法使いは巫女の向かいに座った。紅く揺らめく照明が、二人の影を静かに揺らす。
「しかし……、今日はなんだってここで宴会なんか開くんだ? いつもみたく神社でやりゃ済む話じゃないか」
「さあね、あのメイド主催って事だし、大方、お嬢様のなんたらって所じゃない?」
「なんたらって……、お前も何にも聞いてないのか」
魔理沙は呆れたように言った。
「あら聞いたわよ。メイドが招待に来たときに、あんたと一緒にね」
「……まあ、いいか」
「ええ、それにたまには良いんじゃないの? こういう形式の宴会も」
「まあな。ま、私的にはゴザ敷いて升酒片手に花見てるのが好きなんだが、中々これはこれで趣き深いもんもあるもんだ」
「ま、私もワイン片手に……ってのはあんまり慣れないんだけどね」
霊夢は空を見上げた。一際大きな満月が、紅く紅魔の館を照らしている。
「ところで……、今日は取り巻き二人は居ないのかしら?」
「あ? 取り巻き?」
「パチュリーとアリス」
「別に取り巻かれては……」
「あの娘ら、宴会のときいつもあんたの一定距離間に居るじゃない」
「ああ~……。何処だろうな、そう言えば」
魔理沙は周囲を見回す。パーティ会場には明りがまばらに在るのみで、暗く、人を捜すのに不都合ではあったが、一際明るく照らされた、大きめの舞台の手前で、レミリア・スカーレットとパチュリー・ノーレッジの二人が懇談しているのを見つけることは、そう難しいことではなかった。
「あそこに一人居るな。お嬢様とお話し中だ。まあ友人のお祝いだってんなら寧ろ自然か。……あの舞台は何なんだろうな?」
「さあねえ、友人代表のスピーチでもするんじゃないの?」
「結婚でもすんのかって……、あの舞台の上になんかデカい看板が掲げてあるんだが、ありゃなんだ?」
看板には、ただ大きく『レミリア・スカーレット』とのみ書かれている。
「……自己顕示欲の象徴か……?」
「吸血鬼の考えることは解からないわ」
 霊夢は肩を竦めた。魔理沙が笑って、霊夢のグラスにワインを注いだ。霊夢は「ありがと」と言い、それを口に運んだ。魔理沙が一度、伸びをした。
「さてと……、今度はアリスの奴でも捜してみるかな」
「あら、呼んだかしら?」
 不意に魔理沙の背後から、聞きなれた魔法使いの声がした。
 魔理沙が声のした方に振り返ってみると、そこにはアリス・マーガトロイドの姿があった。手にはノートを持ち何かを書き留めている様子だ。挨拶もせず、霊夢がそれを指差す。
「なにそれ、ストーカー日記?」
「違うわよ! これはね、新しい人形作りのためにデータを集めてるところなの」
「へえ、酒も呑まずに何のデータ収集だ?」
「酒呑み人形」
「なんだって?」
 いまいち洒落が効いているのか、判別付きかねた。
「だから酒呑み人形だってば。家で独りでお酒なんて呑んでもつまらないじゃない?
だから一緒にお酒を酌み交わせる人形でも作ろうかと思ってね。私の人形達は家事や労働は一通りやってくれるんだけど、その手の道楽性に欠けるところがあったからね、仕事以外の仕事をさせてみるのも面白いかなって」
「……そうか、……まあ、なんだ……がんばれ?」
「あら、応援してくれるの、ありがたいわね。じゃ、私はまだやる事があるから、じゃあね」
 そう言うとアリスは何処かへ歩いて行ってしまった。
 薄明かりの闇に溶けていくアリスの背中を、霊夢と魔理沙は静かに見送った。
「……なんか、可哀想だったな」
「そう? 楽しそうだったじゃない」
「いや、まあな、うん」
「いいのよ理由なんて。結果として探究心と向上心に繋がっているんだから」
「そういうもんかね?」
「そういうもんよ」
「そういうもんか……」
「まあ私はああは成りたくないけどね」
「まあそれはそういうもんだな」
 魔理沙は、いつの間にか空になった二人のワイングラスにたっぷりと真っ赤な葡萄酒を注いだ。月はそろそろ南中し、更け切った夜の空に小さく、弱弱しくも確かな存在感を示している――。
 ――その時になって初めて、レミリア・スカーレットが遠くの舞台の上に立ち何やら朗々と演説をしているのに気がついた。
「――というわけで是非このレミリア・スカーレットに清き一票を 私の幻想郷統一の目的の為に清き一票 清き一票を!」
「一俵一俵って……。あいつはまた何を企んでんだ。精米か?」
「ライスシャワーかしら?」
「じゃ、やっぱ結婚式か」
「資金集めみたいなものかしらね」
「全然違うわ……」
 突然、呆れたようなため息交じりの声が、二人のところに降ってきた。
割って入った台詞の主は、十六夜咲夜だった。隣にはパチュリーも居る。
「おう、なんだ二人とも、こっちは楽しんでるぜ」
「そう、それは良かったわ。――ところで、今夜のお嬢様の行いの理由について……、説明が要るかしら? やっぱり」
「ああ、別に要らないぜ。私らは呑めれば幸せだ」
「ていうか、あんた私らを招待するときに何か言ってたじゃない。何で今更」
 その言葉を聞いて、咲夜は僅かに口ごもった。
「いやその……ね、正直私もよく分かってないところがあったし……」
「私が説明するわ」
 横で聞いていたパチュリーがそこで口を挟んだ。
「解かりやすく言えば外の世界の情報に影響されたのね。散歩に出かけて帰ってくるなり『紅魔党を結成するわ!』なんて言い出して……。理由を聞いてみれば、『清き一票を! って言ってみたい』だそうよ」
「はぁ」
 魔理沙は、相槌ともため息ともつかない声を上げ、呆れ呟いた。
「これまた随分身勝手な……」
「幻想党でも良いんじゃない? って言ったら、『なんで』って返されたわ」
「まあらしいな」
「らしいわね」
「らしいでしょう」
「らしいけど迷惑よ……。さっきだって勝手に推薦人にされて壇上に上がらされたんだから」
 パチュリーはため息をついて首を横に振った。
「おいしいじゃないか、見てなかったけど」
「あら、見ていないのならそれは良かったわ」
 咲夜は我が意を得たりといった風に言った。
「なにしろパチュリー様ったらなんだか緊張しちゃってカミカミで……」
「そういう事は言わないでいいの」
 パチュリーが咲夜の言葉を制す。落ち着いた風にしているが、少し照れているのだろうか、ほんの少し、顔が赤くなったようだ。
「はい、申し訳ありませんパチュリー様」
 そう言う咲夜は、しかし少し楽しげだった。
 そういえば、と霊夢が思い出したように、
「ところで――、あの中華小娘は一緒じゃないのかしら?」
 と言った。しかし言ったものの、大した興味がある風でもなかったが――。
「美鈴? さあ――。今夜はお嬢様が無礼講だって言ってたから、大方何処かで呑んでるんでしょうけど――」
「お、あそこだ」
 魔理沙の指差す先に、紅美鈴は居た。どうやらパーティに参加している妖精達に中国武術のレクチャーをしているらしかった。だが顔を見ると、ほんのり酔っているように見える。なんだか楽しげだ。
 やがて彼女はこちらに気が付いたらしく、少し緩んだ笑顔で咲夜達の方に近づいてきた。
「あれ~? 咲夜さんじゃないですかあ。どうしました、呑んでないんですか?」
「私にはまだ仕事があるのよ」
「ああそうですかあ……。あ、咲夜さんもどうです? 私の『絶対に破られない門番式防衛術』講座」
「そうね、考えてみても良いけど……、私がそれをやったらもういっそのこと私が門番をやった方が館への侵入は難くなるんじゃないかしら?」
「そそ……っ、そんな事無いです!」
 咲夜の言葉に、咄嗟に否定の言葉を述べてしまったものの、美鈴はそれが失礼に当たる言葉だということを認識したらしく、すぐさま弁明をする。
「いえ、えと、この仕事は私じゃないと務まらないものと思ってますので、その……っ」
「あらそう? ……ふふっ、それは良い心掛けね。その意気込みでこれからも頼むわよ」
 そう言う咲夜は、いつになく優しげな表情を浮かべている。
「は……。はいっ! ありがとうございますっ! 失礼しますっ!」
 そう言うと美鈴はきちっと背筋を伸ばし、手を振り意気揚揚と引き上げていった。
 それを微笑と共に見送る咲夜の様子を、パチュリーが少し驚いたように見ていた。
「……な、何でしょう?」
「いや、ちょっと意外だなと思って」
「そんな……、私だって悪い事をしていなければ無闇に怒ったりしませんよ。部下のやる気を認めてそれを後押ししてやるのだってメイド長の務めです」
「そう。良い仕事をしてるのね」
「恐れ入ります」
 咲夜はうやうやしく頭を下げた。
「あ、そうそうところで……」
 パチュリーは話の矛先を、なんとなげに酒を飲んでいた霊夢の方に向けた。
「あなた政党持ってみる気とかない?」
「は? 何よそれ」
 些か唐突な申し出に、霊夢はその言葉をいまいち理解しかねた。
「今のところ政治家としての立候補者がレミィしか居ないからね。このままじゃ一党独裁の形になっちゃうから具合が悪いのよ。どう? 博麗党なんて」
「つーかただの独裁だな」
 魔理沙がひひひっ、と笑う。
 霊夢は思案気に空を仰ぎ、グラスのワインを少し啜った。
 やがてパチュリーを向き直り、口を開いた。
「そうね、お金が入るのなら考えてみてもいいわ」
「解かったあなたには任せられないわ。――まあ良いんだけどね、政治って言ったって、どうせお遊びなんだし」
「政治家の鏡だな」
「反面教師ね」
その台詞まるっきりあなたに返すわね。――それじゃ、魔理沙はどう?」
「まっぴら御免だな」
「でしょうね、聞いてみただけよ。――ふう、久々に出歩いたから疲れちゃった。咲夜、そろそろ帰るわよ」
「かしこまりました、パチュリー様。――じゃ、私達は帰るけど、あなた達も程々にしときなさいよ」
「おう、潰れない程度に呑んで帰るさ」
「そ、まあゆっくり楽しんでいってね」
 そう言い残すと咲夜はパチュリーと並んで館の方に帰って行った。
「……それにしても」
 去ってゆく二人を見送りながら、魔理沙が呟いた。
「紅魔館の生活ってのはそこまで暇なのかね」
「というより、紅魔館自体が暇な場所なのかもね」
「建物ばっかりでかくてな」
「建物ばっかりでかいから暇なのよ」
「あら二人とも」
 気付くとアリスが片手を上げながらこちらに近づいてきた。
「まだ呑んでたの」
「なんだアリス、もうデータ収集とやらは良いのか?」
「ええ、もう十分。私も一杯貰って良いかしら?」
「おう呑め呑め」
 アリスは何処からは空いている椅子とグラスを持ち出し、霊夢と魔理沙の座るテーブルに着いた。魔理沙がアリスのグラスに赤いワインを注ぐ。
「ありがと。――ふう、おいしい」
 アリスは注がれたワインを一口だけ口にしてから一息付いた。
「良い人形は創れそうか?」
「お陰様でね。……ただやっぱり、皆酒癖が違うから、誰を基準に設定すべきかが問題よね……」
「そうか……。……なあアリス、明日うちに遊びに来ないか?」
「へ? え、な、なんで!?
 アリスはその申し出にあからさまにうろたえた。呑みかけていたグラスに、少しワインが逆流したかもしれない。
 魔理沙はそんなアリスの反応に、少し引き気味に問い返す。
「いや別に……。嫌なのか?」
「そんな事……! ない……わよ。ない、うん」
 なんとか気を落ち着かせたらしいが、紅い照明の空間に、アリスの顔が一層紅く映って見えた。
「うん……行く」
「よし来い来い」
 魔理沙はアリスの返事に満足したらしく、目を細めて嬉しそうにしている。
「うん……え、何で?」
 しかしアリスは未だに混乱から脱しきれていない様子だ。
「何でってお前な……。たまにはお前と二人で一晩呑み明かすのも悪くないと思っただけだよ」
「そう……。えと、それなら行くわ。じゃ……えと、今日はこの辺で……」
 アリスの様子が、なんとなくそわそわしている。
「え? おいもう帰るのか?」
「だ、だって色々準備とかしないといけないし……服とか」
「服?」
「人形のよ人形の! 綺麗な格好させてあげないとなの!」
 アリスは手をばたばた左右に振り、必死に弁解をしている。魔理沙も心得顔でアリスに返す。
「ああそうか。まあ、あんまり気張った格好で来なくてもいいからな」
「うん……。って違う! 私のじゃなくて人形の服だってば!」
「分かった分かった。ま、忙しいみたいだし、そろそろ帰ったほうが良いんじゃないか?」
 うろたえるアリスを見る魔理沙は楽しそうだ。どうやらアリスもそろそろ落ち着いたらしく、呼吸を少し整えた。
「そうね……そうするわ。じゃ、魔理沙、明日ね」
「おう、明日な」
 そうしてアリスは魔理沙に背を向けスタスタと歩いていった。ほんの数メートル離れたところで、アリスの鼻歌が聞こえた。――跡にはアリスの飲み残しのワイングラスが残された。
「いらん世話ね」
 少し冷めた目を魔理沙に向けて、霊夢が言った。
「いいじゃないか、独りで酒を酌み交わしているのよりは、よっぽど健康的だろ?」
 言いながら魔理沙は、アリスの飲み残しのグラスをひと息に飲みほし、息をついた。
 霊夢はやはり興味なさげに、頬杖を付くようにして魔理沙に向いた。
「ま、いいんだけどね。明日は明日、今日は今日。今夜のあんたの相手は私。月の見えるうちはまだまだ呑むわよ」
 そしてそう言い、頬を少し緩ませた。
「付き合うぜ今夜の私の相手」
 魔理沙が笑ってそれに答えた。
 
 ――遠くで何かがキラキラ輝いている。
 遅れてパチパチと慌しい音が聞こえてきて、それが花火だと気が付いた。
 一旦光が消えるのを見届け、魔理沙が口を開いた。
「そんじゃ、アレだな」
「アレ?」
 きょとんとする霊夢に魔理沙が続ける。
「今夜私らがこうして呑めるのもレミリアが――なんだっけか……、とにかく何かをおっ始めてくれたからなわけだ。……うん、あいつは何をしてるんだったか?」
「あんたね……咲夜が言ってた事をもう忘れたの?」
「じゃ、お前は憶えてるってのか?」
「そんなの」
 霊夢は肩を竦める。
「憶えてるわけないじゃない」
 魔理沙が笑う。
「だよな。――それじゃ、まあとにかくさ」
魔理沙は手に持ったグラスを霊夢の方に傾けた。
お嬢様のなんたらに……ってことで」
「ああ……。そうね、お嬢様のなんたらに――」
 霊夢もそれに応える。
 ――空に大きな花火が咲いた。
「乾杯」
 
 
 
 
 
 
                                                《終》
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HN:
植栖価値(うえすかち)
性別:
男性
趣味:
ケツを叩いてアヘアヘ歌う事(嘘)
自己紹介:
 女の子が尿意を我慢する様と、キツネっ娘をこよなく愛する。
 あと百合。百合。大好きだよ。

 パンクロッカー。
 活動経歴・なし。




 
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