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同人小説書き『植栖価値(うえすかち)』のブログだよ。二次創作とかオリジナルとか色々やるよ。でもブログにはあんまり長いのは載せないと思います。変なのを書きがちだよ。最近は主にTeitterに生息中。TitterID:【lost_taboo】
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宴会は大詰め神社は盛り上がる。
好き勝手に酌み交わす人間や人間以外達――。だがその中で、ただ一人だけ雰囲気を異にしている人間以外が居た。
師匠と並んでシートの上に正座をするブレザー姿の少女、――鈴仙・優曇華院・イナバ。不安げに目を伏せどうにもそわそわと落ち着きの無い様子で体を揺らしている。
 
――うう……お手洗いに行きたい……――。
 
――目下のところの彼女の望みは、ただそれだけだった。


    ◆   ◆
 
時間を少し遡る。
それは宴会が半ばに差し掛かる頃。鈴仙はなんとなしに師匠の場を離れて境内に座り霊夢と話をしていた。話と言っても取り留めの無い、していてもしていないのと変わらないような、そんな話。
ふと霊夢が、あそうだと立ち上がり神社の中に引っ込んでしまった。
――何だろう? と鈴仙が思っていると間もなく、霊夢がパタパタと足音を立てて、外の世界の物なのであろう二リットルサイズのペットボトルを持って戻ってきた。
「それは何?」
霊夢の手の中のものを指差し鈴仙が問う。
「さあ、よく分からないんだけど魔理沙が香霖堂で貰ってきたのよ。で、要らないからって私にくれたんだけど私も要らないし……、だからこの際あなたにあげちゃおうかと思って」
「なんであなたが要らないものを私が欲しがると思ったわけ?」
「あら、だってあなたのとこの師匠って変な薬が好きなんでしょ? それに健康に良いみたいよこの飲み物」
「どこでどう伝わってそうなったのかしらね……。でもあなたが物を人にあげるなんて珍しいわね、お金を取ったりしないの?」
「ごみ処理してお金が手に入るのならそれは儲けものね」
「……貰っとくわ」――
 
 ――――
 
そうして霊夢から例の飲料を受け取った鈴仙は、その数分後にはもとの永琳の下に帰り、何ともなしに永琳に酒を酌み酌みしていた。が、どうにも酒瓶の群れの中に一つある、どうにも見慣れない、ペットボトルと呼ばれる物が気になって仕方がない。
ついに鈴仙はそのフタを開けてみることにした。
ボトルの中身をガラスのコップに注ぐ――。なんとも味気ない、透明な液体がグラスの中を満たしていく。しかし幽かに甘い、良い香りがしている。鈴仙は恐る恐るグラスの縁に唇を付けた――。
「あ、おいしい――」
意外なほどの美味に、鈴仙は思わずそう呟いた。
正直なところ鈴仙は、霊夢から何か受け取った時点でそれは何か警戒すべきものではないかと疑って掛っていたのでフタを開けることを躊躇っていたのだが、この時点で、少なくとも味に関しては心配するところのない飲み物だということが解り、いささか拍子ぬけをしてしまった。そしてそれ故に、先程までの警戒を一度に解いてしまい、彼女は思わず二口三口と立て続けてその正体不明の飲み物を口に運んでしまったのだった――。
 
それから三十分程経った後――。
――お手洗い行ってこよ――
不意な尿意に気付いた鈴仙は立ち上がり、一言永琳に言葉をかけて再び霊夢の居る神社の境内に向かった。――その時鈴仙は、何となくその尿意の高まりの早いような感を抱いていたが、別段気に掛けることもなく、しかし少し歩速を早めて境内の方を目指した――。
やがて、一人境内の濡れ縁でくつろぐ霊夢を見つけて、声をかけた。
「あ、ちょっとお手洗いを借りたいんだけどいい?」
「え? ……あー、うん……」
何故か霊夢の返答は煮え切らない。
「んー……良いっちゃ良いけど……」
――何となく、鈴仙はそこで言葉を濁す霊夢に違和感を覚えた。というより、嫌な予感と言うのか――。
「良いけど、何よ」
「吹き飛んじゃった」
「は?」
いまいち理解に苦しむ返答に思わず頓狂な声を上げてしまった。
「だーから、トイレは吹き飛んじゃったのよ、見る? 跡地」
 霊夢の発言の意味を把握出来ない(跡地?)。なのでとりあえず霊夢に導かれるままに本来手洗所のある筈の場所に行ってみる。すると、以前は確かにそこに在った……否、今もそこに在るべきその部屋――トイレ――は、霊夢の言葉の通り消し飛び、ただ神社と隣接したただの更地となり果てていた。――あるのは、かろうじで部屋が在ったのであろうと認識できる程度の壁の跡と、白い陶器を含む無残な残骸だけである。
 鈴仙は口をポカンと開けて、その何もない土地を眺めた。
「えと……なんで?」
「なんか、一昨日魔理沙が『黒いのが出た……、黒いのが、黒いのが……』とか怯えてて……。ねえ、自分だって黒いくせに」
「そんな事で……! え、じゃああなたはどうしてたの? その……、お手洗いは」
「……教えてもいいけど……。人の家の敷地内でそんな事をするのはちょっとどうかと思うわ」
 そう言う霊夢の視線の先は、神社を囲むように広がっている雑木林――
 
 ――――
 
「あら? 早かったのね」
「え、ええ、まあ」
 結局鈴仙は用を済ませる事無く永琳のもとに帰ってきてしまった。――というより、あの場で済ませようという事自体無理な事ではあったが。
 確かにそのとき霊夢は、溜息まじりながらも「まあ……、止むを得ないなら仕方ないけど……」などとは言ったが、それでほいほい林に用足しに行けるほど鈴仙の神経は図太くなく、数秒の逡巡の後にその場を立ち去る決断をしてしまった。帰り道、常に視界に入ってくる茂みに密かに思いを馳せつつ、重い足取りを引きずり永琳の隣に腰を掛けた。
 
  ◆   ◆
 
 ――うう、お手洗い行きたい……――。
 
 席を外していたのはそう長いことではなかったのだが、既に鈴仙の思考の多くはそのただ一つきりの事に支配されかけていた。よくよく見ればその体も落ち着き無くふらふらと揺れ動いているのが見て取れただろう。――しかし平時ではない鈴仙のであったが、一つだけ席を外している間に変化した事物を発見する事が出来た。
「あれ――? 師匠、ここにあった……あの――変な飲み物は知りませんか?」
「ああ、それなら貴女がお手洗いに行っている間にてゐが持ってっちゃったわよ」
「え、あ、ああそうなんですか」
 聞いてはみたものの、それは鈴仙にとっては大して重要な事ではなかった。
 ――沈黙する。
 周囲の酒盛りの喧騒が鈴仙と永琳を包んでいる。騒霊達はブカブカと喧しく音楽を掻き鳴らし、それに併せて高らかに歌う夜雀の声がする。すぐ隣では鬼と鴉が飲み比べをし、あちらでは魔法使いや巫女が花吹雪ならぬ星吹雪に興じている。
 これだけ賑やかなのだから、少しくらいの沈黙は物の数には入らない――と思えど、実際の所はそうとも行かず、いかにも重苦しい沈黙(少なくとも鈴仙にとって――)を崩すために何かしらの話題を永琳に振ろうとするも、すでに鈴仙の頭に浮かぶのは、如何にして自分の身を苛む尿意から我が身を開放するか――、という只一つのことのみだったので、どうにもこうにも一言を発する術が見当たらないでいた。
「あ、あ、あの……!」
「ん、なにかしら?」
 言いかけて鈴仙は咄嗟に口をつぐんだ。今自分が言おうとした言葉――『お手洗いに行かせて下さい』――。恥の感情はこうも人の気持ちを狂わせるのか、切羽詰まると冷静な思考は遠退いていってしまうらしい。この際何も言わずに立ってしまえば良いものを、もはや自分で自分が分からなくなってきている。そもそも我が師匠にしてみれば自分はほんのついさっきお手洗いに立ったばかりで、既に用は済ませてある筈である。なのにその舌の根の乾かぬうちに再び『お手洗いに行かせて下さい』とは、師匠にしてみれば訝しい限りだろう。その上、『行かせて下さい』とはどうしたことか、そもそも鈴仙は席を立つのを禁止されてなどいない筈なのに――。
「えと……何でもないです……」
「そう? なんだか体調悪そうだけど……、もう帰ろうか?」
 それは彼女にとって願ってもない申し出だった。このままいつ終わるとも知れない宴会の中、時毎に強まる尿意に耐えて過ごすより、住家に戻り我が家の手洗いに入るほうが遥かに希望があった。
「え、ええ! できれば……」
 
丁度鈴仙がそう永琳に二つ返事をしたとき、てゐも二人のもとに帰ってきた。――しかしその表情にはどこか焦りの色が見え、何より、永琳に差し出されたそのペットボトルは、既にほとんど空になっていた
「お師匠さまぁ、い、一体なんでしょうこの飲み物の正体は!?
「正体?」
 永琳は震えるてゐの様子を訝しがりながらも、その手から空のペットボトルを受け取り、内容表示をさらりと眺めた。――僅かに永琳の眉が顰められる。
――やがて永琳は口を開いた。
「……なるほど、これは効き過ぎね」
「は、効き過ぎ――とは?」
 そう訊く鈴仙の手は震え、自分のブリーツ・スカートの両脇を強く握り締めている。――本当はすぐにでも帰りたかったのだが、絶妙のタイミングでてゐが戻ってきた事により話が少しでも長引いてしまう事が口惜しかった。――唯一の希望といえば、恐らくはてゐも自分と同じ状況にあるのであろう、ということだ。が、それも単なる気休めに過ぎないのではあるが――。
永琳は言う。
「多分――この飲み物、外の世界で作られたは良いけど、ほら、ここに書いてあるでしょ? この売り文句の、『代謝を活性化する力』ってのが極端に強くって、世の中に出回る前に廃棄されちゃったんでしょう。ふん……汗じゃなく尿に変換されるのもマイナス要因ね、きっと」
そして、永琳は弟子二人に促すように言った。
「さ、そういうわけだからほら、さっさとおしっこしてきちゃいなさい」
「う……」
師匠の言葉に二人の弟子は同時に口篭もった。羞恥心もあるがそれよりももっと致命的な理由により――。
「……? どうしたの?」
「あの実は……」
口を開いたのはてゐだった。実はてゐも既にあの吹き飛ばされたトイレを見て驚かされて来ていたのだ。
てゐからそのトイレの惨状の事を聞いた永琳は、驚くやら呆れるやらの複雑な表情をしていた。そんな表情のままに、首を鈴仙の方に向ける。
「……じゃあ鈴仙、貴女さっき立った時にはおトイレは……?」
「う……。い、けてません……」
 永琳の表情は一層呆れたものになり、小さな溜息を一つついた。
「それじゃ貴女だっていい加減限界でしょうに……」
 鈴仙は俯き、顔を真っ赤に紅潮させている。その間も彼女の体はせわしなくごそごそと揺れ動き、内腿をすり合わせている。
 永琳は立ち上がり、「立てる?」と鈴仙に手を差し伸べた。
 このとき尋ねられて初めて鈴仙は、今の自分では立ち上がることすら難しい事実に気付いた。永琳の手を取り恐る恐る膝を立てる――漏らす心配は無い――自分にいくらそう言い聞かせても中々安心できるものではない。――が、立ち上がる事はそれほど難なくこなす事が出来た。意外と、まだ歩く事は出来るかもしれない。
しかし、ここから永遠亭までの道のりの事を思うと、そう楽観ばかりしてはいられなかった。
ふとてゐの方を見る。せわしなくつま先でトントンと何度も足踏みをしていて、鈴仙と負けず劣らず辛そうな様子である。それはそうだ、ここで飲んだ飲み物の量は酒量の多い分、鈴仙のそれを大きく上回る筈である。下手をすれば既に鈴仙よりも多くを溜め込んでいるのだろう。
「それじゃ、漏らしちゃわないうちに早く帰りましょ」
 そう言いながら永琳はさっさと前を歩き始めた。
 鈴仙とてゐもそれに遅れて、微かに不自然な足運びで師匠を追って歩き始めた。
 
 ――――
 
 ――かなりの時間、歩いた。永琳は何度も何度も後ろを振り向きつつ歩き、二人の弟子の遅い歩みを見守った。二人の様子を見れば、明らかに歩き始めの頃よりも尚切羽詰まっている様が見て取れる。二人とも、俯けた顔は紅潮し、息が荒い。額には玉の汗が浮き、眼にはうっすら涙が滲んでいるのさえ見える。そして何よりその姿勢は、初めの頃より明らかに前傾となり、その手は内腿のあたりを強く掴んだり、軽く掻いてみたりもしている。
 あまりに凄惨な状況に、永琳も居たたまれなくなり、二人に、いっそのことその辺りでしてきてしまえばどうかと提案した。
 二人とも、泣きそうな顔を持ち上げ永琳の顔を見上げたが、二人顔を見合わせ、緩やかに首を横に振った。実のところ、気持ち的には直ぐにでもそうしてしまいたい考えで一杯だったのだが、しかし二人とも、その選択肢をもう少しもう少しと先延ばしにするうちに――その機を完全に逸してしまっていた。
――永遠亭は、既に目と鼻の先にあるのだ。
 
 最早二人の一歩は亀のそれよりも遅かった。
 玄関の引戸はすぐ眼の前。永琳が戸を開けて待っている。手を伸ばせば届く距離なのに、そこまでたどり着くのにも一刻も掛ってしまいそうな、よわよわしい歩みである。――否、歩みというよりも、足を前に擦りだして進んでいるような有様で、まるで立ったまま這っているような具合だ。
 しかしそんな状態の中、突然鈴仙の足取りが確固としたものとなった。すたすたと歩いて戸をくぐり、たたきまで来て右足を後ろに曲げ靴を脱ぎ足を床に載せ、左足も後ろに曲げて靴を脱ぎ、そのまま脱いだ靴を放り投げて濡れ縁に沿って目指す方向にすたすた歩いた。ところが鈴仙は、ついに限界が訪れてしまったのか、お手洗いの文字の扉が正面に見える廊下で、突然にしゃがみ込んでしまった。
 必死に足を閉じ、最早恥も外聞もないままにあらん限りの力で股間を押さえつけている。――眼に滲む涙はやがて溜まり、冷泉の頬を一筋流れた。
「だ……大丈夫……?」
 永琳がたまらず声を掛けるが、反応は無い。何か助けになれることは無いかと考えはするものの、よもや尿意を和らげる薬などというものが必要になるとは思いもよらずに、ただもしもの為に、一応だからと鈴仙に弁解したのち、風呂桶を用意した。
 しかし永琳がその桶を鈴仙の前に差し出しても、鈴仙は固く眼を瞑り、首を横に振るだけである。それは、もはや意地のようなものだった。そもそもトイレが目の前にあるというのに、その目前で風呂桶に用を足すなど、鈴仙にはひたすらに考え難い行いであり、下手をすればこのまま漏らした方が或いは遥かにマシなのではないかと思える程であった。
 ……一分と経っただろうか――。やがて、幾分かの余裕が生まれたらしく、鈴仙は乱れた呼吸を整えるために数回大きく深呼吸をし、ゆるゆると立ち上がった。そして傍らで心配げにしていた永琳の方を向き恥ずかしげに、白い歯を見せ、笑顔を作った。
「なんだかんだ……間に合いました」
 そうして鈴仙が、一歩、また一歩と歩を進めていると、しかし後ろから、
「待ったー!」
 という声が聞こえてきた。
 果せるかな。声の主はてゐだった。鈴仙がその場でうずくまっている間に、てゐもゆっくりゆっくりながら近づいてきていたのだ。
 がくがく震える内股をぴったり合わせ、両手をその間に挟み込ませている様は、いかにも『自分はもう限界』というような有様を示していて、実際、彼女ももういい加減限界なのだろう。てゐは震える声で言った。
「ええっと……、確認しときたいんだけど……くぅ……、うち、トイレ一つだけだよね? ……、えっと……、どうするつもり?」
『どうするつもり』……? 一瞬てゐの言葉の意味を計りかねてしまった。しかし次の瞬間になって、その言葉の意味を理解した。そして……
「どうするつもりも何も……、うう……決ま……ってるじゃない」
 その答えを聞いててゐは、無理矢理不敵な笑みを作って見せた。言わんとすることを察した永琳は呆れて溜息を付き、
「汚したら新薬のドレイズテストに付き合ってもらうわよ」
 と言った。
 二人とも、さっきまでの弱り具合とは打って変わって、眼に光を湛えはじめた。そして二人とも見合って、同時に、
「弾幕勝負――」
 掛け声を――、
 
   開始!!
 
 …………
 ……とはならなかった。開始の合図を口にする前に二人とも同時にしゃがみ込んでうずくまってしまった。
「ま、こうなるでしょうね」
 永琳が肩を竦めた。
「だめだめだめだめだめだめだめだめ……」「漏れちゃう漏れちゃう漏れちゃう漏れちゃう……」
 さっきまでの威勢と打って変わって二人とも荒れ狂う尿意を押さえつけるために再び涙交じりの世界に入り込んでしまった。しかしさんざふざけていたせいで、先刻と比べると明らかに緊張感に欠けていた。――もちろん状態としてはむしろ先よりも危険な状態となっているわけだが――。
 こういう感じでいくらか緩くなった空気ではあるが、しかしながら、鈴仙の心は次第に折れかかっていた。なにしろすぐ手を伸ばせば届く位置に、風呂桶が置いてある。さきほどまでの矜持はどこへ行ったのか、今や彼女は、目の前の桶に何より心を惹かれるようになっていた。
 鈴仙の心が大きく揺れる――。
 やがて鈴仙が眼前の誘惑物に、『一応』という名目で取り上げるために、足の間から手を離す――。ところが鈴仙は、
「あっ」
 と声を上げ、伸ばしかけた手を再び足に挟んでしまった。強力に力を込めているのか、手を挟んだ足が、体ごとカタカタと震えている。もしかすると少しだけ――出てしまったのかもしれない。
 しかし――、あるいはこれで吹っ切れたのか、鈴仙は再びカタカタと膝を震わせながら立ち上がると、馴れ馴れしげな笑顔をてゐに向け、言った。
「ねえ……、恨みっこなし……。競争……ってことで、良いんじゃない?」
 それを聞いたてゐは、鈴仙を見上げ、憎々しげに笑った。そして鈴仙の提案に乗ることを示すように、ゆっくりと立ち上がり、答えた。
「負けた方は、……っ! ……そこの桶で……ね」
「はいじゃ、よーいドン!」
永琳が頼まれてもいないのに開始の音頭を取った。いつの間にか彼女はこの状況を少し楽しみだしている様子だ。――カメ兼ウサギにより催されているこのレースは、或いは永琳の目にはよっぽど愉快な座興に思えたのかもしれない。……あまりいい趣味とは言い難いが――。
――永琳の合図で二人とも走り出した。
走るといっても膀胱を庇いながらなので、その進みは遅い。ほんの十メートル先のゴールに着くのにも一分か二分は掛ってしまうだろう。しかしその歩みは一歩一歩着実に近づきつつある。それこそまさしく、ウサギとカメの喩えのようにどれだけ小さな一歩でも、弛まず諦めず進み続ければ、必ず目的地にまでたどり着くことが出来る。思えばここに来るまでもそうではなかったか。帰り道のうち、幾度も幾度も、いっそのこと繁みでしてしまおうかなどと考えた。しかし決して諦めることなく前に歩み続けたからこそ、この永遠亭に辿り着いたのだ。――そして鈴仙は思う。今、私は鈍間なカメだ。だけれども、一歩、二歩……。ほら、確かに近づいている! あれだけ遥かと思われていたゴールまで……、終着点まであと少し――!
 
「? 何やってんの? あんたたち」
必死な二人を横目に、輝夜がトイレに入って行った。
これには鈴仙もてゐも、果ては永琳さえも絶句した。
三人の動きが固まる。鈴仙とてゐがポカンと顔を見合わせている。
…………
…………
「姫は何故空気が読めないんですか!」
突如永琳が扉に向かって怒鳴った。
「な……なによ。いつ私がトイレに入ろうと勝手じゃない」
扉越しに、心底驚いたという風に輝夜が答える。
「いいから早く出てきてください!」
「何よ、あなたそんなに我慢してたの?」
「私は我慢なんてしてません!」
「じゃ、静かにしててよ。折角の三日ぶりのごにょごにょ……なんだから」
「何がごにょごにょですか! いい年して、とっくに恥じらいなんてないでしょうに!」
「な……! 失礼ね! 私にだって……!」「だいたいそんなだから……!」
二人がギャーギャー騒ぎ合っているとき、鈴仙とてゐは顔を見合せたまま硬直していた。が、やがててゐが、「ねえ」と切り出した。
「何?」と鈴仙が返す。
「あんたも霊夢んところ行ったんでしょ?」
「え、ああ、そうね」
「そんときあの巫女、何言ったか覚えてる?」
「へ? えー……と」
「いや、分かんないならいいや」
「? 何が言いたいのよ」
「いやね、ここは霊夢んちじゃ無いってこと
「……? そうね」
「で、大局的にいえばここは私んちだってこと
「……! ああなるほど……。うん、それもそうね」
「まあ正直、どこでも良かったんだね」
「でも……、やれることはやりたいじゃない」
「ま、それはそうだけどね」
「で、貴方の許可は貰えるわけ?」
「もちろん。ケチなことは言わないよ」
「そ」
会話が終わるや否や二人は縁側の板敷きを蹴って別々に庭の茂みの中に飛び込みあっという間に身を隠した。もちろん飛び込みながらも下着に手を掛けていたので滞りなく……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                                                終》
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プロフィール
HN:
植栖価値(うえすかち)
性別:
男性
趣味:
ケツを叩いてアヘアヘ歌う事(嘘)
自己紹介:
 女の子が尿意を我慢する様と、キツネっ娘をこよなく愛する。
 あと百合。百合。大好きだよ。

 パンクロッカー。
 活動経歴・なし。




 
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